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今年も健康診断の春がやってきました。
常日頃、女性ホルモン検査を声高におすすめしておきながら、女性ホルモンの「きほんのき」を何気にスルーしていることに気づきました。そこで、今回はその分泌の仕組みやどのような作用があるか、また基準値や検査結果からわかることなどを数回に分けてガッツリ説明したいと思います。
もちろん、検査結果は患者様ごとに丁寧にご説明いたしますが、予習・復習のためにもご一読いただければ幸いです。
初回は女性ホルモンの分泌の仕組みと、主に検査の対象となっているホルモンの種類やその役割について解説します。
女性ホルモンはのべつ幕無しに放出されているわけではありません。脳で管理調節されています。分泌を促したり抑えたりする命令は、間脳の視床下部で出され脳下垂体から卵巣に届けられます。いろんなところでせっせとコビトさんが伝言ゲームしているイメージですね。
ホルモンのコントロールセンターは間脳の視床下部というところにあります。集中管理方式なので、性ホルモンの他にも甲状腺・成長・副腎皮質ホルモンなどを管理していますが、視床下部の最も重要な仕事は自律機能の調節です。まぁ、取締役会のような相当エラい所だと思ってください。
女性ホルモンが分泌されるにはまずここから指令が出ます。その指令もホルモンの一種でGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)といいます。
よく物事をあえてややこしくする人がいますが、日本語名はかなりそれに近い感じのネーミングセンスです。またの名をゴナドトロピン放出ホルモンと言いますが、ゴナドトロピンが何かわからなければ同じことですね。
ゴナドトロピンと呼ばれる性腺刺激ホルモンを放出させるためのホルモンだということです。…説明している本人がわからなくなってきました。このホルモンに関してはとりあえずGnRHで覚えましょう。
偉い部署は指令を出すだけで、実際にメッセージを書いて届けるのは別の部署であるという構図は会社も人体も変わりません。視床下部からの指令を受け取った脳下垂体(秘書室あるいは庶務課?)は、実際の現場である「卵巣」に指示書を作って送ります。その卵巣への指示書に該当するのがゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)です。
卵巣あてのゴナドトロピンには指令の内容によって2種類ありますが、なんと男女兼用で、指示先が卵巣か睾丸かで結果が全く異なるわけです。もちろんここでは卵巣限定で説明します。
ゴナドトロピンが出なければ卵巣で女性ホルモンは作られないので、検査の指標としても欠かせないホルモンとなっています。名前はFSHとLHで覚えていただいた方が、検査表にもこの表記が使われているので何かと便利です。
脳下垂体から分泌される妊娠・出産関連のホルモンには上記の2つ以外にプロラクチン(乳腺刺激ホルモン、略称PRL)というものがあります。
出産後に母乳を出すために大切なホルモンなのですが、通常はあまり高い値にはなりません。高い値を示す場合は何らかの異常が考えられるので検査対象となります。
ゴナドトロピン(FSHとLH)の指令が卵巣に届き、やっと女性ホルモンが分泌されます。卵巣で合成されるホルモンはこの有名な2種類です。
最初に説明したややこしいホルモンを出していた視床下部は、ダテにえらいというわけではありません。コントロールセンターだけのことはあり、指令がちゃんと実行されたかはしっかり監視しています。
チェック方法は、現場で作られるホルモンの血中濃度なのですが、良くも悪くも数値結果が全てでどこでどうやって作られたかとかはあまり気にしていないようです。これを逆手に取ったのが避妊薬(ピル)や更年期のホルモン療法なのです。
高齢出産が増加傾向にある近年、検査対象として注目されているのがAMH(抗ミュラー管ホルモン)です。
AMHは発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンで、卵子が後どれだけ残っているのか、卵巣の能力は年齢と比較してどの程度なのか、などの卵巣予備能を知る指標となります。
詳しくは次回解説いたします。
卵胞とは卵子が(1つずつ)入った細胞のことで、卵巣にいっぱいつまっています。性周期ごとにこのうちの1つだけが大きく育って卵胞がはじけ、卵子だけ卵巣の外へと送り出されます。これが排卵です。このときタイミングよく精子に出会えると受精が成立します。
卵子が出て行った後のヌケガラ卵胞は黄体というものに変化します。なぜ黄体と言うかというと、黄色いから。それだけです。卵胞と黄体はこれからバンバン出てきますから頭に叩き込んでください。
女性ホルモン(と、それに関連するホルモン)の目的はたった一つ「子孫を残すこと」です。ここからはいわゆる女性ホルモンについて、その種類と役割についてもう少し詳しく見ていきます。
はい、出ました!「月経周期とホルモン分泌の相関図」。これを見たことの無い女性はモグリ(?)です。今から何度も使い回しますから、今回はエストロゲンとプロゲステロンのピークのみを見ていただいてサラッと流しましょう。
女性ホルモンと言えばこのエストロゲンです。このホルモンの安定した周期的な分泌は、女性として子孫を残せることのなによりの証になります。
本来の役割は妊娠を成立させることにありますから、子宮内膜を増殖させて、受精卵のためにフカフカのベッドを作るのが得意技です。
しかしなんと申しますか、妊娠は相手があってこそ成立するものですから、ただ待っているだけでなく殿方に好意を持っていただかなくてはなりません。そう考えると排卵の直前に一番分泌量が増えるのがなんとも意味深です。
エストロゲンには女性を美しくしてくれる効果があり、俗に「美人ホルモン」とも呼ばれてます。肌や髪の毛をつやつやにし、女性らしいふくよかなバストとむっちりヒップを作り(…すみませんちょっとオヤジが入りました)しかも自律神経も安定させてくれるので概ね排卵時期の女性は穏やかで優しいです。でもそれと同時に脳が活発化して頭の回転も早くなってますから要注意ですよ。
それにしても、ここ一番の時期を狙いすまして勝負に出るとは、エストロゲン恐るべしですね。
とにもかくにもエストロゲンは女性として健康でたおやかに(死語?)に生きるためのエッセンスといえるでしょう。
エストロゲンには3種類あります。微妙に分泌時期や作用が異なり、語尾変化三段活用のような厄介な名前がついていますが、検査を受ける上では結果に表示されるE1〜E3で覚えておくと役立ちます。
二大女性ホルモンの片割れプロゲステロンは、エストロゲンに比べるとその恩恵が見えにくいホルモンです。
エストロゲンは排卵まで大いに活躍してくれますが、排卵後はプロゲステロンのほうが分泌量が増えていきます。エストロゲンが作ってくれたフカフカベッドをさらに寝心地よくし、受精卵をワクワクしながら待ってるわけですが、受精卵がなければ「な〜んだ、ダメだったか」とばかりに分泌量は減り、ベッドをさっさと片付けます。これが生理(月経)です。
妊娠が成立するとそのまま出っぱなしになり、さらに胎盤からも分泌されるようになります。
プロゲステロンは受精卵の着床と妊娠の継続に無くてはならないホルモンですから、不妊の原因を探る上でも重要な指標となります。
この排卵から次の生理までのプロゲステロン増加期間は、女性にとってあまり心地のよいものではないことが知られています。
身体が熱っぽくて(体温が上昇)なんとなくだるいし、腹痛・腰痛・頭痛が起きたり、精神的にも不安定になりイライラします。これらが重症化したのが月経前症候群(PMS)です。身体はむくんで顔にはニキビがが出たりすることもあるため、ブスホルモンなどと悪口も言われています。
ひょっとすると妊娠しているかもしれない大事な時期に余計なことをさせまいとするカラダの戦略か?などど穿った見方もしたくなりますね。
さらにプロゲステロンには、血糖値を下げてくれるインスリンの効きを悪くする作用もあります。そのため、膵臓はせっせとインスリンを分泌することになり、その結果血糖値が乱高下したりインスリンの別の作用で身体に脂肪を溜め込んだりします。この時期のダイエットは大抵うまくいきません。
ブスに加えてデブと、プロゲステロンだけで二拍子揃えてくれるわけですから嫌われるのもしかたありません。
なので、プロゲステロンは更年期で分泌が減ってもあまり気に留めてもらえませんが、妊娠を望まれる方はどうか厄介者のプロゲステロンともうまくつきあってくださるようお願いします。
P4っていうくらいだから種類がたくさんありそうですが、ホルモンと呼べる強い作用があるのはP4のプロゲステロンだけです。その他の番号はプレグナンジオール(P2)、プレグナントリオール(P3)などプロゲステロンの代謝産物につけられていますが、通常の検査ではP4だけ覚えていれば十分です。
このように、女性が子孫を残すために善かれと思える、ありとあらゆることに精一杯尽力しているのがこの女性ホルモンなのです。
意図したものでは無いにせよ、外見に加えて気持ちまでコントロールするホルモンの見事な戦略には驚かされます。これも進化の賜物なのでしょうか。
いよいよ次回からは年齢や症状別に具体的な数値を見ながらホルモン検査の結果を読み解いていきます。