スタッフコラム|町田市鶴川・川崎市麻生区の産婦人科|鶴川台ウィメンズクリニック|駐車場完備
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妊婦さんの8割が経験するといわれている「つわり」。
個人差や経験の有無もあってなかなか理解してもらえないため、特に初産の妊婦さんにとっては母になる前の最初の試練です。
今回は、当院長の永遠のテーマである「妊婦さんの心のケアの大切さ」を、つわりにまつわる問題から解説します。
どんなにつらい症状であっても、必ず終息が来るとわかっているからでしょうか? つわりの起きるメカニズムは未だに解明されていませんが、原因と思われているものはいくつかあります。
妊娠した女性だけが作る、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンがあります。胎盤の一部で作られる妊娠維持に欠かせないホルモンで、妊娠検査薬はこのホルモンを検出して判断しています。
つわりは10週あたりにピークを迎え、15週ごろまでにはほぼ終息しますが、hCGはこれと完全に正比例する形で分泌されるため、つわりとの関係が指摘されています。
胎盤からはこれ以外にもたくさんのホルモンが分泌されますが、これを独立した内分泌器官が丸々一つ増えてしまうことと考えると、妊娠が内分泌系に及ぼす影響の大きさがわかります。
つわりを一種のアレルギー反応であると捉える考え方です。
人間には、自分でないもの(非自己物質)を識別して排除する働き(免疫)が備わっています。母体にとってお腹の赤ちゃんは完全な異物です。胎盤が確立するまでは一時的に免疫の働きを鈍らせて受精卵を攻撃しないようにしているのですが、見えないところで実はものすごい葛藤があるのかもしれません。 (この部分に光をあてると、数々の自己免疫疾患や免疫をすり抜けてしまうがんの治療、移植の様々な可能性等が見えてきますが、これらはまた改めて。)
妊娠という体の変化がもたらすホルモンの嵐が、自律神経のバランスを乱すのは当然です。交感神経優位な状態ばかりが続けば、動悸、食欲不信、めまい、不眠とそれこそありとあらゆる不調が現れます。
つわりのことを英語で「morning sickness」と言いますが、朝につわりの症状が出やすいのは単に空腹や血糖値のせいだけでなく、交感神経(緊張)と副交感神経(弛緩)の切り替えがうまくいっていないこともあるでしょう。
内分泌、免疫、自律神経の乱れは、妊娠という体の変化そのものによっても引き起こされますが、相互に作用しあって症状を複雑にしている面もあります。さらにここにストレスという要因が加わることで症状を増幅し、つわりが重症化する(悪阻になる)可能性が出てきます。
ストレスというと悪いことのみに捉えられがちですが、昇進や成功なども大きなストレスになることが知られています。まずは妊娠そのものがかなりのストレスであるということを認識しなくてはなりません。
つわりは、体の変化と心のストレスという二つの要因が同時に内分泌系・免疫系・自律神経系に作用して体に影響を及ぼす、もっとも複雑な心身症と言えるのです。
ここで気をつけたいのは、心身症という言葉そのものに対する誤解です。心身症は不安神経症やうつ病のような心の病気ではありません。体の病気です。体に表れた症状に心的なストレスが大きく影響しているものが「心身症」なのです。糖尿病や高血圧も広義な意味では心身症に含まれます。
ただ、残念なことに、心身症の含まれる病気のリストの中に「つわり(妊娠悪阻)」が入っているのを見たことがありません。
従来言われてきたような、つわりは「気の持ちよう」や「甘え」であるといった精神論や根性論に結びつけて対応するのはさらに危険です。つわりによる体の症状は厳然たる事実で、心のあり方はその強弱を左右する要因の一つに過ぎません。
精神論や根性論は全く役に立たないどころか逆効果です。妊婦さんにとって、ひたすら我慢を強いられたり罪悪感を植え付けられて自己否定することは、良くないストレスを増加させるだけです。
以下の項目のうち当てはまる数の多い妊婦さんは、もともとストレスのコントロールが苦手であったり、自分自身で気づいていなくても妊娠に関して大きなストレスを感じている場合が多く、つわりがひどくなる傾向があります。(院長の「妊娠悪阻重症度予測」スコアより作成)
当てはまる項目が多いからといって必ずしもつわりが重くなるわけではありませんが、リスクが高い場合はそれ以上のストレスを増やさないことが大切です。
つわりに関する情報の多くは、単純に身体の症状のみで治療の必要度を分類しています。そのため、妊婦さんの多くは食べ物を受け付けなくなり体重が減少するなど、かなり重症になってから医師に相談する場合が多いのです。
治療といっても脱水と栄養失調を防ぐ対症療法が中心となりますが、点滴で栄養補給をするだけでも症状が緩和することもありますし、つらさが和らげばストレスは大きく減少し、重症化を食い止めることができます。
重度の妊娠悪阻によって母体を守るための人工中絶にまでいたる割合は1000人に一人程度と極めて少ないとは言え、そこにつらい症状を訴える患者さんがいれば医師には改善する手段を見つける努力が必要です。いずれは収まるものだからと安易な判断をすべきではありません。
妊婦さんもつわりくらいで医師を煩わしてはならないなどどいう考えは捨てて、早めに重症化の芽を摘み取るためにも積極的に主治医に相談して欲しいと思います。
つらさが増しているようだと感じたら、友人に相談する感覚でカウンセリングを受けてみるのも一つの手段です。専門家であればより多くの症例を知っているので、その人のケースにあったアドバイスをしてくれるはずです。
まずは、妊婦さん自身が一番楽になれる方法を模索すること。妊婦さんにも、お腹の赤ちゃんにもこれがもっとも大切なことです。
イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスの著書『The Selfish Gene(1976年)』でブームになった利己的な遺伝子という説があります。
遺伝子こそが主体で我々の行動を決定づけるものであり、個々の動物は単に遺伝子の乗り物(vehicle)にすぎない。という主張です。
遺伝子側から見れば、新しい個体に乗り換えるもっとも重要な妊娠初期に、変なものを口にされたり、やたらと動き回られたらせっかくの新しい乗り物が台無しになりかねません。それを阻止できれば、母体にとっては不快なつわりも遺伝子には有利に働くというわけです。実際に、つわりがひどい母体から生まれた子供はIQが高いとか、より健康であるなどのデータもあるようです。(さらなる検証が求められますが)
また、野生動物ではゴリラやニホンザルでつわりが確認されているそうです。ペットの犬猫にも見られるという飼い主さんの報告もあります。
群れを作って生活するサルは個体同士が相互依存関係にあると言えますし、ペットは飼い主無しでは生存できません。どちらも人間と同じく社会的な動物であるといえるでしょう。
つわりは、群れの中の他の個体からケアや関心を引き出し、出産の安全性を確保する無意識の戦術という捉え方もできます。
こういう様々な考えに思いを巡らせれば、つわりのつらさをやり過ごす一助にはなる…かもしれません。