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昨年発表したヨクイニンの記事はたいへん多くの反響がありました。そのことは、それだけ多くの方が子宮頸がん(とその前段階)に悩んでおられるという事実を示しています。
しかし、国(自治体)も医療関係者もただ検診を薦めるばかりで、結果が出たあとのアフターフォローに関してはあまりにもお粗末です。
子宮頸がんという病気をよく理解していただき、検診の重要性や有用性を納得した上で最適な検診を受け、さらにその結果を正しく理解してご自身のケアに取り組んでいただけるよう、今回から数回に渡り「徹底解説!子宮頸がん」連載をスタートします。
まずは皆様の曖昧な子宮頸がんに関する知識を明確化するのが目標です。偏見や誤解を払拭して、検診の受診率をアップするために最前線(最底辺?)から精一杯声を上げていきたいと思います。
そもそもがんとは、私たち自身の細胞が突然変異を起こしコントロールや役割を失って正常な細胞を押しのけながら増殖してしまうことです。ほとんどができる場所で名前がついています。
子宮にできるがんには大きく分けて子宮体がんと子宮頸がんがありますが、この二つはがんのできる場所だけでなく、その原因も全く異なります。
子宮体がんは閉経後のメタボタイプの方に多く女性ホルモン(エストロゲン)が関与していると言われています。
一方子宮頸がんは、30〜40代をピークとした経産婦に多く、HPV(Human Papilloma Virus:ヒトパピローマウイルス)に感染することが発端になることが分かっています。
今回説明するのは後者、子宮頸がんについてです。
子宮頸部とは子宮の入口から奥の子宮体部に至るまでの通り道が細くなっている部分です。
私たちの体の組成から見ると膣は実は体の外という扱いで、顔や手足の皮膚と同じように平たい細胞(扁平上皮細胞)が積み重なり、そこそこ丈夫な構造になっています。一番下層の細胞(基底細胞)だけが分裂して古い細胞を押し上げていくお肌のターンオーバーについては皆様よくご存知だと思いますが、子宮口付近も同じような表皮の仕組みになっているのです。
一方、子宮口から少し奥に行くと腺細胞と呼ばれる粘液を出す細胞がむき出しになってる部分が連なっているのですが、子宮頸部はこの言わば体の外側と内側がせめぎあっている部分に当たります(移行帯と言います:上図参照)。この移行帯はウイルスが容易に細胞に入り込める狙い所になっており、がんが発生しやすい部分とされています。
そして、どちらの部分ががんになったかで扁平上皮がんと腺がんに分けられます。前者は皮膚がんの仲間で早期発見も容易ですが、後者は胃がんや大腸がんの仲間で前者に比べると見落とされることも多く治療も難しいので注意が必要なことは覚えておいてください。
*備考:扁平上皮がんと腺がんの罹患数を比べると上皮がんのほうが4〜5倍多いと言われていますが、詳しい数値資料は見つかりませんでした。
1970年代、ウイルスの研究者であるツア・ハウゼン博士(Harald zur Hausen)がある種のHPVが子宮頸がんの発症に関わっているという仮説を発表しましたが、当時はあまり評価されませんでした。
しかし、共同研究者ともに研究を継続し、1980年代に子宮頸がんを起こす2種類のHPVをつきとめました。さらに2006年からは子宮頸がんをワクチンで予防できるようになったのです。
そして2008年、これらの功績が認められノーベル生理学・医学賞を受賞しました。これ以上のお墨付きはありませんね。
現在、子宮頸がんに関しては扁平上皮がんについてはほぼ100%、腺がんに関しても90%以上の発症にHPVが関係していると解ってきました。
ここで間違えてはいけないのが、がんそのものが伝染するわけではないということ、つまり子宮頸がん自体は伝染病でも、STD(性感染症)でもありません。
HPVを一言でいえば、人に感染するとイボを作る(ことがある)ウイルスです。手足にモコモコできる水イボやSTDの尖形コンジロームが知られていますが、病気を引き起こすHPVはほんの一部に過ぎません。HPVの仲間は分類されたものだけでも200種類近くにも及び、人類誕生の頃から人と共存して来たと思われる非常に身近なウイルスです。何も悪さをしないので見つかっていないものも、現在変異中のものも、まだまだあるはずです。
この膨大な種類のHPVの中で、子宮頸がんの発症に関連があるのは、現在13種類(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68)であるとされ、高リスク型と呼ばれています。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、全ての女性のうち80%以上(男性は90%以上)が生涯で一度は何らかのHPVに感染するという推測を発表しています。そのうち高リスク型に感染するのは約半数と言われています。(日本独自の広範囲データは見つかりませんでした)
そんなありふれたウイルスが子宮頸がんを引き起こすのであれば、ほとんどの女性が子宮頸がんになってしまいますよね。実際はそうではありません。がんになるまでにはいくつもの段階や条件があり、長い年月がかかるのです。もう少し詳しく見て行きましょう。
HPVに感染してから子宮頸がんになるまでは、おおよそ次のような過程をたどります。
ざっくり言うとこんな感じなのですが、この程度ならどこでも説明しているのでもっと深堀りしてみましょう。
HPVには多くの人が感染するのに今まで見過ごされて来た最大の原因は自覚症状の無さです。
通常、ウイルスは細胞に取り付いて中に侵入しその細胞を材料にして自分のコピー作りに励みます。いっぱい複製できたら占拠していた細胞を壊して外に出て行き、また新しい細胞を見つけて…と、この繰り返しでウイルスは数を増やします。侵入者と戦って敗れた免疫細胞や、壊された自分の細胞で現場は戦場と化し、いわゆる炎症を起こした状態になります。インフルエンザに感染すると鼻やのどの粘膜が腫れて苦しくなるのはそのせいです。
しかしHPVは細胞をどんどん壊すような急激な炎症を起こすウイルスではないことに加え、子宮頸部は見えないのでほとんどの方が感染したことさえ気づかないのです。
健康な皮膚から病原菌が入り込めないのは子宮頸部も同様で、HPVは傷口などを狙って侵入して来ます。目指すのは表皮の一番底にある基底細胞です。(なぜ基底細胞なのかと問われると答えに窮しますが、ウイルスは感染する細胞の選り好みがとても激しいものなんです。)
免疫が正常に働いていれば、邪魔されて目的の細胞にたどり着くのも一苦労です。たとえ運良く細胞に潜り込みウイルスコピーを初めても、作るそばから免疫細胞に捕獲されて劣勢になればおのずと感染する細胞も減って来ます。
私たちの皮膚は一番下層の細胞(基底細胞)だけが分裂して古い細胞を押し上げていく仕組みですから、感染したせいで変な形になっていた細胞も、細胞内にいるHPVごと押し上げられて垢となってはがれ落ち、いずれは元通りのきれいな状態に戻ります。90%の人が感染してから2年以内にこの経過をたどって回復します。この免疫の活躍も全く気づかぬまま終わってしまいますが、たまたまこの時に検診をうけると擬陽性になる場合があります。
よく「HPVは放っておいても自然に消える」などと言われていますが、勝手に蒸発する訳じゃありません。「免疫によって撃退され、検出できないほど数が減った」というのが本当のところです。
「自然に消える」の次に決まって出てくるのが「一部の人が持続感染になる」という説明。ここで「持続感染って何?」とつっこんでください。じゃないと以下の説明が無駄になっちゃうので。
短期間で細胞を壊しながら大量のウイルスが作られると、感染する細胞がすぐに底をついてしまいます。これは私たち宿主の死を意味しますが、宿主無しで生きられないウイルスにとっても同様です。
そこである種のウイルスは、生産を調整して宿主の細胞が増殖するスピードと同じ速度で細胞を消費するずるい手段を講じます。しかもその間、新たな宿主に乗り移るチャンスも増えるので一石二鳥というもの。ウイルスの側から見て、いい塩梅に宿主と共存できているこの状態を持続感染といいます。持続感染といえばB型肝炎のHBVが有名ですがHPVも同じような性質をもっているのです。
HPVが特に巧妙なのは、ウイルス生産の方法とスピードを子宮頸部の上皮細胞のターンオーバーとリンクさせるところです。基底細胞内ではおとなしく、細胞が押し上げられていく間に中でウイルスを増やし、はがれ落ちるときを狙って細胞を壊してウイルスを拡散するのです。
持続感染の中でも、ほとんどウイルスを作らずただ細胞の中でじっとしているような場合もあります。むやみに動いて免疫に見つかり駆逐されないようチャンスをうかがっているような状態ですね。これを潜伏感染といいます。体の免疫力が衰えた時を狙って活動を再開し、宿主の体に悪さをするのです。このタイプではヘルペスウイルスなどが有名ですが、HPVも基底細胞に長期間潜伏できることが判っています。
HPVのキャリア(持続感染)になってしまう人は全感染者のうち1割ほどと言われています。免疫力の低下以外の要因もあると思いますが、HPVが持続感染を起こす詳しい条件や方法、どの程度の期間、感染を維持できるのかなどはまだ良く分かっていません。
感染を受けた基底細胞はがんになる前段階として細胞分裂が活発になり、まわりの正常細胞を押しのけてモコモコと増殖し平たいイボのような状態を作ります。これが異形成と呼ばれるものの正体で、これを発見することが検診の最大の目的なのです。
しかしここまでなら、良性のHPVが原因の水いぼや尖圭コンジローマなどと同じです。高リスク型と呼ばれるHPVの恐ろしいところは、自分の遺伝子を宿主の細胞遺伝子に組み込んで都合良く細胞を操っていくところなのです。
がんになるかどうかのターニングポイントは、基底細胞の遺伝子が高リスク型HPVによって書き換えられ始めた頃、ということになります。
異形成からがんになるまでにはとても長い時間(10年〜20年)かかります。
感染で遺伝子が書き換えられた細胞が何度も繰り返し分裂する過程で、自身の遺伝子にも突然変異を起こし、それが積み重なって最終的にがん化すると考えられているのです。この突然変異が起きる確率が、がんになる確率と言ってよいかもしれませんが、だからこそ予測不能でもあるのです。
しかし、まだ予防線はあります。
私たちの細胞はとても健気で、自身の遺伝子がおかしくなっていることを感知すると自ら命を絶ちます。これをアポトーシスと言い、異常な細胞を排除するために私たちの体に備わっている免疫力の一つです。HPVはこのアポトーシスの仕組みが働かなくなるよう、細胞の遺伝子を書き換えます。
また、細胞は場所と役割によって分裂回数も制限されているのですが、HPVはそのプログラムも逆にどんどん分裂するように書き換えてしまいます。
本来の役割も果たせず、死ぬことも許されず、分裂のリミッターを解除された細胞は遺伝子を変質させながら無限増殖という悪夢に向かって突き進んでいくことになるのです。これがHPVが細胞のがん化を促す仕組みです。
現在では、細胞を不死化するためにHPVが作る2種類のタンパク質(E6、E7)も判明し、その現れ方でがん化のリスクを判断することも可能になってきました。
最終的にがん化した細胞は増殖だけに専念し、ウイルスの生産さえもやめてしまうのです。これはHPVにとっても予期せぬ結末なのかもしれません。
上皮内での増殖に留まっている場合はまだおとなしいがん(上皮内がん)ということもできますが、悪化して加速度がつくと、ついには基底膜を突き破って増殖していきます(浸潤がん)。
この段階になるとさすがに不正出血や痛みを伴ってきます。しかし、自覚症状が現れるころにはがんは相当進行していると思った方がよいので、転移という最悪のシナリオに至る前に直ちに病院で検査をしてください。
もっとも簡単に効率よく免疫力をアップできるのがワクチン接種です。
副反応がマスコミで取り上げられて以来、公費補助のある自治体も激減してしまいましたが、子宮頸がんワクチンの有効性は科学的証拠に裏付けられたまぎれもない事実です。
ワクチンについての詳細はここでは書ききれませんので、当院で接種受付再開の準備が整い次第、改めて詳細にご説明いたします。
ワクチン接種を受けていない場合は自分の免疫力だけでHPVを撃退しなくてはなりません。HPVには抗体を作りにくくする免疫回避の性質があるので、初動対応である自然免疫だけが頼りです。
感染するのはほぼ避けられないので、長期間の持続感染を起こさないようにするのがポイントになりますが、そんなことを意識するまでもなく、健康な方であれば定期検診さえ受けていれば特に心配する必要はありません。
しかし、免疫不全の方や免疫を抑制するお薬を服用されている方の場合は、子宮頸がんを発症する確率が高く発症までの時間も短いというデータがあるので注意が必要です。
子宮頸がん検診が、治療を必要としないものまで発見するために、要らぬ不安をあおったり、不要な外科手術を増やしているという意見を耳にします。
確かに、異形成の程度は自然回復にゆだねて定期観察をするものから外科的に病変を切除した方がよいものまで非常に範囲が広く、診断が難しいのも事実です。HPVに感染しているかだけでなく、細胞や組織を採取して専門の診断士が顕微鏡で見て初めて診断が確定するので、患者様にも負担がかかります。
そうは言っても検診が子宮頸がん予防に貢献していることは否定のしようがありません。
たとえ異形成が見つかったとしても、気づかないまま病気が進行し、子宮を全部摘出しなければならなくなったり、あちこちを蝕んだがんと過酷な戦いをすることを回避できた、とポジティブに捉えるほうが自然ではないでしょうか。
もちろん、そう納得していただくためには丁寧な説明とケアが欠かせないことは言うまでもありません。これに関してはとても複雑なので検査結果の見方だけを解説する予定です。
しっかり勉強して頭に入ったところで、いよいよバーチャル検診を受けていただきましょう。
子宮頸がんがどんな病気かわかっても、自分自身にどの程度関わる問題なのかは実際に検診してみないことには始まりません。次回は子宮頸がん検診の一部始終を秒単位で詳細解説して参ります。