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スタッフコラム

Staff Column

日本は赤ちゃんが世界一安全に生まれる国、でもその一方で…

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2018年2月にユニセフ(国連児童基金)が発表した報告書で、日本は「赤ちゃんがもっとも安全に生まれる国」であることがわかりました。
大変喜ばしいことですが、このデータをいろいろな角度から見てみると、そこには興味深い事実も見えてきます。

日本が「安産大国」である根拠

新生児死亡率 2017

・184カ国対象のデータ
・出生1,000人当たりの新生児死亡数(単位:人)
・資料:United Nations Inter-agency Group for Child Mortality Estimation, 2017.

1位 パキスタン 45.6
2位 中央アフリカ共和国 42.3
3位 アフガニスタン 40.0
4位 ソマリア 38.8
5位 レソト 38.5
6位 ギニアビサウ 38.2
7位 南スーダン 37.9
8位 コートジボワール 36.6
9位 マリ 35.7
10位 チャド 35.1
184位 日本 0.9

これがニュースになった新生児死亡率のデータです。
新生児死亡率とは、生後4週間(28日)未満の新生児が死亡する割合のことで、1,000人あたりの人数で表します。
最も少なかった日本は0.9人、最も多かったのはパキスタンで45.6人とその差は50倍にも及びます。

妊産婦死亡率 2015

新生児死亡率だけではなく、妊婦さんの方も見てみましょう。
妊産婦死亡率とは、妊産婦が妊娠及び出産それ自体が原因で死亡する割合のことで、100,000人あたりの人数で表します。

・181カ国対象の推計データ
・出生10万人当たりの妊産婦死亡数(単位:人)
・資料:THE WORLD BANK – Maternal mortality ratio (modeled estimate, per 100,000 live births), 2015

1位 シエラレオネ 1,360
2位 中央アフリカ共和国 882
3位 チャド 856
4位 ナイジェリア 814
5位 南スーダン 789
6位 ソマリア 732
7位 リベリア 725
8位 ブルンジ 712
9位 ガンビア 706
10位 コンゴ民主共和国 693
167位 日本 5

1位のシエラレオネは世界で最も寿命の短い国だそうで、死亡数が多いのは妊婦さんに限ったことではないようですが、見ているだけで悲しくなるような数値です。

こちらに関しても日本は順位は下から数えた方が早い167位で、数値は5人です。(最下位はポーランド、アイスランド、ギリシャ、フィンランドがほぼ同率で3人)

これを国内の出産総数100万人から推計すると、日本では年間約50人もの妊婦さんが、妊娠・出産で亡くなっていることになります。これは決して少ない数ではありません。
しかし分娩中は予期せぬ出血などの不確定な要素が多く、非常に対応が難しいのも事実です。だからこそ、早くから妊婦さんの体調やリスクを把握し、病院間の連携をしっかり取って死亡を減らす努力がまだまだ必要だと考えます。

それぞれの死亡原因を世界と比較する

新生児の死亡原因

1位 先天性異常
2位 周産期の呼吸障害など
3位 乳幼児突然死症候群
4位 不慮の事故
世界 1位 早産(未熟児)
2位 重度の感染症
3位 分娩時の窒息など
4位 先天性異常

まず、国内の死因を見ていきます。
このデータは産まれて1年以内に死亡した場合の原因なので、正確には新生児ではないのですが、厚生労働省のデータではこれしか見つからなかったのでご了承ください。

先天性異常が原因の場合、悲しいですが赤ちゃん自身に生きていく力がなかったということです。
「周産期の呼吸障害など」の項目には、呼吸窮迫、肺出血、心血管障害が含まれます。
乳幼児突然死症候群は原因すらよくわかっていません。
世界、特に開発途上国における新生児の死亡原因は、早産、重度の感染症、窒息で8割以上を占めます。
衛生状態が悪く、医師や看護師も足りないので呼吸のできない赤ちゃんに蘇生を施すことさえもできないのです。早産で産まれれば、抵抗力も弱くあっという間に感染症にかかってしまいます。
どれも病院のような衛生管理の整った場所で、医師や助産婦立ち会いのもとで出産すればその多くは防げたに違いありません。

このような対処可能な問題は、日本では全てクリアされているといっても過言ではありません。
妊婦さんの感染症は先に発見して治療し、健診で早産・流産を未然に防ぎ、危険が予想される場合でもNICU(新生児集中治療室)を完備した「周産期母子医療センター」が整備されています。
近年では新生児医療の進歩により、超低出生体重児(1000g以下)の赤ちゃんも救えるようになってきています。

妊産婦の死亡原因

日本国内での死因は、子宮内などの大量出血が最も多く、続いて血圧上昇に伴う脳出血、羊水が母体の血液に流入してしまう羊水塞栓症などで、この3つでほぼ半数になります。

死亡数がそのものに圧倒的な差があるのは言うまでもありませんが、開発途上国においては妊娠前からの病気が原因の死亡が3割近くを占めます。母体がすでに重度の感染症(主にエイズとマラリア)にかかっていたり、栄養状態が著しく悪い(貧血など)ために出産に持ちこたえられない場合が多いのです。
大量出血と感染症、妊娠高血圧症がこれに続きますが、適切なケアが受けられれば多くの妊婦さんが助かっていたはずです。

見えてくる妊婦健診の重要性

日本の「母子ともに安全な出産」への取り組みが始まったのは昭和17年、なんと70年以上も前なのです。この年に出された「妊産婦手帳規程」という厚生省令が、現在まで続く母子健康手帳を交付して妊婦さんや赤ちゃんの健康を管理する方法の原型となりました。昭和40年には「母子保健法」として体系化され、多くの改正を経て今日に至っています。

妊婦や新生児の死亡原因を途上国と比較すれば、妊婦健診の重要性と貢献度がよくわかります。
初期に行う血液検査には、妊婦さんの健康状態の把握だけでなく、感染症を見つけるための項目が多く含まれていますし、エコー(超音波)検査は早産や流産の予知・予防に絶大な威力を発揮します。しかも日本のどこに住んでいても同じように高度なケアが受けられます。
日本が「赤ちゃんがもっとも安全に生まれる国」になれたのは、国・自治体・医療機関が一丸となり様々な課題に長期にわたって取り組んできたからこそなのです。

出産は、母親にとっても産まれてくる子供にとっても命がけです。それは現代でもなんら変わりはありません。
プレママの皆さんには、日本に産まれた幸運を味わいながらしっかりと妊婦検診を受け、そして元気な赤ちゃんを産んでいただきたいと思います。

これが何のデータかわかりますか?

ここに良く似たランキングがあります。
このデータも妊娠と出産に関連するデータなのですが、なんの順位かおわかりになるでしょうか?

1位 ニジェール 7.29
2位 ソマリア 6.37
3位 コンゴ民主共和国 6.20
4位 マリ 6.15
5位 チャド 6.05
6位 ブルンジ 5.78
7位 アンゴラ 5.77
8位 ウガンダ 5.68
9位 東ティモール 5.62
10位 ナイジェリア 5.59
170位 日本 1.46

実はこれ、日本が数値上昇を切望する「合計特殊出生率 2015年」の順位データなのです。

・188ヶ国対象(一部過去データで補完)
・女性1人が一生で出産する子供の平均数(単位:人)
・資料:THE WORLD BANK – Fertility rate, total (births per woman),2015
ちなみに最下位は香港で、ポルトガル、韓国、シンガポールとほぼ1.2前後で続きます。
日本の1.46は2005年に記録した最低値の1.26に比べればかなり持ち直したものの順位は低迷したままで、G7の中ではイタリアと最下位を競っている有様です。

上位には、今まで見てきたようなデータの常連であるアフリカ諸国が並んでいます。
たくさん産まれるけれど、そのうちの多くが死んでいく。こんなことに使うのは不適切ではありますが「歩留まり」という言葉が頭をよぎります。
多くの犠牲の上に強い者だけが生き残って命をつないでいく、これが人類がこの世に誕生した頃の本来の姿なのかもしれません。

終わりに

先進国に住む私たちは、妊娠すれば必ず無事に生まれるものと思い込んでいるところがあります。
出産する子供の数や時期を選ぶのは当たり前のことになり、初産の年齢は上がる一方で人工授精のハードルはどんどん下がっています。
実際に高齢出産や不妊治療による多胎妊娠などが要因で、日本の出生数全体に占める低出生体重児の割合は増加傾向にあるのです。

自然の摂理をゆがめていくと、果たしてそこにはどんな未来が待っているのでしょうか?

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