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スタッフコラム

Staff Column

女性ホルモン検査でわかること2・不妊と卵巣予備能

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前回はホルモンの異常と無月経について説明しましたが、今回は女性の妊娠しやすさ=妊孕(にんよう)性について解説いたします。

生理はあるけれどなかなか妊娠しないので無排卵ではないか?そう考えて当院を訪ねてこられる方は結構いらっしゃいますが、本当の理由はそう単純ではなかったりするのです。
感染症や子宮・卵管などの器質異常も原因ではない場合に考えられる理由を、内分泌や卵巣予備能などから考察します。

まずは自分の周期を把握すること

ここまで来ると嫌がらせか、と言われてもしかたがないですが、またまた登場の性周期の図です。
この図は28日周期で作ってあります。これは正常と言われている25〜38日の中で、4週間ちょうどで計算しやすいという都合で作っているだけで、28日ピッタリでびくとも動かない人なんてそうそうお目にかかれるもんじゃありません。

意外に思われるかもしれませんが、不妊を訴えてこられる方の中には、単純に排卵のタイミングを見誤っているだけの方が結構いらっしゃるのです。まずは基礎体温を測ることからはじめて、自分の周期を把握しましょう。
最近は、基礎体温を入力すると周期を割り出してくれるアプリなどもあります。市販のLHサージの検査薬を試してみるのも良いかもしれません。ご来院いただければ、超音波検査(エコー)で卵胞の大きさをチェックして、より正確なタイミングを導きだせます。

しかし、25日よりも周期が短かくしょっちゅう生理が来きたり(頻発月経)、それとは逆に2〜3ヶ月に一度くらい思い出したように生理が来る(稀発月経)、さらには生理の間が短くなったり長くなったり、もう基礎体温変化もよくわからない!などの場合は血中ホルモン検査の出番です。

黄体機能不全:受精卵が着床できない

✔️月経周期が短く安定しない(黄体期が短い)

✔️排卵後になかなか基礎体温が上がらない(3日以上かかる)

✔️基礎体温の低温時と高温時の差が少ない(0.3℃以下)

✔️黄体期ピークの血中プロゲステロン(P4)が10ng/ml以下

エストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)は共に受精卵のためのフカフカベッドを作る(子宮内膜を変化させる)重要なホルモンですが、E2は主に未成熟の卵胞から分泌されるので卵胞期に多く、P4は排卵後の卵胞の抜け殻が変化した「黄体」から分泌されるので黄体期に多くなります。

黄体機能不全とは、この「黄体」がちゃんと働かない状態のことです。排卵・受精には問題がないのですが、フカフカベッドを作るエストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)が足りず、子宮内膜が十分に発達しないために受精卵がうまく着床できないのです。
なんとか貧弱なベッドに潜り込めても、今度は黄体がすぐに退化してがP4の分泌をやめてしまうので、出血がおこって妊娠は中断されてしまいます。

無排卵周期症:卵胞の発育や排卵に難あり

一口に無排卵といっても、卵胞がうまく育たないもの、育っても排卵しないもの、卵胞そのものが不足しているものと原因は分かれます。 現れる症状もバラバラですが、基礎体温はずっと低いままで変わらず、月経は不順で少量の出血がダラダラと続く破綻出血である場合がほとんどです。

Check!:消退出血と破綻出血

私たちが生理だと思っている出血には実は2種類あります。
共に子宮内膜がはがれ落ちることには変わりないのですが、エストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)がともにちゃんと作用している場合は消退出血になりますが、排卵が起こらずにE2分泌が続いている場合は破綻出血になります。
パンケーキを焼く場合に例えてみましょう。子宮がフライパンだとするとタネを流し込むのがE2、こんがり焼くのがP4です。両方がタイミングよく作用すれば、パンケーキはポンっときれいにはがれて出来上がりです(消退出血)。でもタネを流し込み続けるだけで熱を加えなければ、タネはダラダラとフライパンから溢れ出てしまうのです(破綻出血)。

多嚢胞卵巣症候群(PCOS:Polycystic Ovary Syndrome)

前回も少し説明しましたが、無排卵症の多くはこの多嚢胞卵巣症候群(PCOS)です。
未熟なままの卵胞がいくつも卵巣内にとどまり排卵が起こりにくくなる病状で、エコー検査をすると小さな卵胞が真珠の首飾りのようにズラッと並んでいるのが確認できます。これをネックレスサインと言いPCOSの診断基準になっています。

排卵を起こそうと脳下垂体からの指令ホルモンであるLHが大量に分泌され続けるため血液検査でも診断できます。男性ホルモンが過剰であることも特徴で、体毛が濃かったり脂っぽくニキビができたりします。欧米人の場合は肥満も多いそうです。

黄体化非破裂卵胞症候群(LUF:Luteinized Unruptured Follicle)

卵胞が成長して排卵期が来ても破裂せず、排卵が起こらないまま卵胞が黄体へと変化する症状です。
黄体から分泌されるプロゲステロン(P4)のせいで基礎体温もちゃんと上昇するため、排卵が起こっていると勘違いさせる食わせ者です。
月経時にエコー検査をすると破裂し損ねた巨大な卵胞がみつかることがあります。

機能性の不妊を改善するには

自分本来の力を取り戻すことを第一に

こういった機能性(器質異常がみつからない)不妊の場合、多くはホルモンバランスの異常が原因です。とは言え、ホルモンを乱す根本原因は不明の場合が多いのです。ホルモンの出所を遡っていけば、卵巣→脳下垂体→脳の視床下部へと行き着きますから、自律神経も深くかかわっていると考えられます。
ここまで連載を読んでくださった方なら、悩んで思いつめることがどれほど大きなストレスになるかもおわかりいただけたのではないでしょうか。もちろん肥満や痩せも大敵です。女性の内分泌はかようにデリケートなのです。

改善するためにはホルモンを補充したり、排卵を人為的にコントロールするなどの方法が有効ですが、まずはホルモンバランスの改善を念頭に生活習慣を見直すことも大切です。漢方薬も効果がみられるので当院では積極的に活用しています。
程度や原因も患者様ごとに千差万別なので、じっくりと取り組み、お一人お一人にあった治療法を探すことが一番重要になります。

いずれは必ず起こる卵巣機能の低下

ただし機能性の不妊の中には、治療が非常に困難なものがあります。卵巣そのものの機能が衰えている場合です。
卵巣の中には原始卵胞がたくさんつまっており、性周期ごとにひとつずつ選ばれた卵胞だけが大きく育って排卵が起こります。この原始卵胞が残り少なくなってると排卵も起こりにくくなってきます。

もし、血液中のFSHが(性周期図の検査時期において)10mlU/mL以上になっており、同時にエストロゲン(E2)も減少傾向にあるなら、それは卵胞が残り少なくなってきた、つまり卵巣の寿命が終わりに近づいたサインかもしれません。年齢が40代ならば生理的なものですが、40歳未満の場合は早発卵巣不全(POF)の可能性もあります。

AMHで卵巣予備能を知ろう

カウントダウンは産まれた時に始まります

卵子(原始卵胞)はこの世に産まれてからはもう女性の身体の中で作られることはありません。卵巣という倉庫の中で保管されているだけです。こればかりは(粗製濫造にちかくても)どんどん補給される男性の精子をうらやましく思いますよね。

胎児のころは数百万あった卵胞は25歳を過ぎる頃には十数万程度になってしまいます。しかも全ての卵胞が育つわけではなく、性周期ごとに約1,000個は無為に失われていきます。十数個の候補者だけがエントリーを許されて育ち始め、さらにその中から女王卵(?)がたった一つ選ばれて排卵されるのです。選ばれなかった卵胞は二度と参加できない、なんとも過酷なコンテストです。
こんなにも惜しげも無く切り捨ててくるのですから、35歳をすぎると在庫は2〜3万個ほどになってしまいます。平均50歳の閉経までは10年以上ありますが、この間に自然妊娠をする可能性は極めて低いと言わざるをえません。

しかし、原始卵胞数は個人差が大きいため一概に年齢で判断することはできませんし、かといってFSHの数値となって現れる頃には不妊治療も既に難しくなってることが多いのです。そこで近年注目されるようになってきたのがAMH(Anti-Mullerian Hormone:抗ミュラー管ホルモン)を調べる方法なのです。

AMHはどんな検査?

そもそもAMH(抗ミュラー管ホルモン)ですが、ミュラー管とは産まれる前の男女に分かれる段階で発現する器官で、AMHはその発達を抑えるホルモンとして見つかりました。後になって血液中のAMHが女性の成熟過程の卵胞数を反映していることがわかり、その利用価値が見いだされたという感じです。

  • 検査の方法
    • 血液検査で簡単に測定できます
    • 性周期の変動が少ないのでいつでも測定可能です
    • E2やP4、ゴナドトロピンなどの同時測定も不要です
  • 結果の見方
    • 正常値や基準値はありません
    • いつまで不妊治療ができるかの目安になります
    • 数値が低いこと=妊娠しにくいことではありません

AMH検査は健康保険の対象ではなく他の検査に比べて若干高額ですが、いずれは出産をと考えておられるなら、後悔しないためにも受けておきたい検査です。
また、結果もむやみに他者と比較するようなことはせずに、その他の所見とも合わせて主治医の意見を聞くことが大切です。

卵子の老化と減少に向き合う

卵胞が残り少なくなると…

原始卵胞が残り少なくなると、どうなるのでしょうか?
単純に考えて、排卵の回数が限られてきますから妊娠のチャンスが減るということになります。ただし、少ないチャンスでもきっちりとタイミングを合わせて確実にモノにすれば問題ありません。AMHの数値と妊娠しやすさ(妊孕性)に直接の関連は無いのです。

しかし、卵子の質の低下だけは避けられません。
高齢になってからの卵胞は生まれてからずっとたなざらしになっていたようなものです。それまでの人生を共にしてきたわけですから本体と同じように年相応に衰え、染色体や遺伝子に異常を起こすものも出てきます。

数の低下がここに追い討ちをかけます。入学試験を考えてみましょう。
志願者が多くて競争率が高い「狭き門」であれば、より優秀な生徒から合格していきますから粒ぞろいになりますよね。反対に入学志願者が少ない場合は(定員を満たすために?)多少能力が低くても入学できちゃったります。しかしたとえ入学できても勉強が難しくてついていけずに落ちこぼれてしまう生徒が出るかもしれません。
卵子も全く同じです。残り少ない原始卵胞から選ばれて排卵された卵子は往々にして質が悪く、細胞分裂が止まってしまったり子宮に着床できなかったりするのです。結果的に妊娠が中断されてしまうわけですから出産というゴールまでたどり着けないことになります。

このように、卵胞の数と質の低下は相乗効果で妊娠を困難にしていくのです。

体の年齢と人生設計の大きなズレ

それでは、質の良い卵子で妊娠できる年齢はいつ頃なのでしょうか?
上のグラフを見てください。点線グラフは生理的に妊娠しやすい時期を表しています。これに従えば、本来なら20代前半が「妊娠適齢期」ということになります。翻って、棒グラフは日本国内において子供が産まれた時、母親が何歳であったかを集計した物です。
まずは1985年のデータ。女性がクリスマスケーキに例えられていた時代ですね。腰掛けで数年OLをした後、25歳までに駆け込み結婚して1年後あたりが第一子が誕生のピークです。30代前半も多いのは第二子も含まれている可能性大です。
これが2015年では、なんとピークが5年もずれてしまいました。全体数が減ったこともありますが、曲線もややなだらかになり出産時期がばらけてきているようにも見えます。

もし野生動物等で調べれば、生理的なピークと実際のピークは重なるはずです。ピークのズレがあるということは、様々な状況下での女性達の意思(晩婚化やキャリア志向)がグラフのピークを右へ右へと押しやっていると考えられます。
妊娠適齢期であるはずの20〜22歳、現代の女性は婚活はおろか、就活真っ最中でキャリア形成のスタートラインにも就いていません。妊活なんて論外もいいとこです。社会に出てからセクハラ、パワハラを堪えてやっと30代でマタハラ対象になれるならむしろラッキーといったところでしょうか?
グラフのピークどころか子育てそのものを押しやってしまいたい気分になりますね。(女性活躍推進のかけ声が遥か遠くに聞こえます。)

子育てのある人生とは

現代の医学を持ってすれば40代や50代でも妊娠・出産が可能だと思っている方も結構いらっしゃいます。近代医学を信奉していただくのはありがたいのですが、それは自然に抗って可能性の低いものにあえてチャレンジすることでしかないのです。

アンチエイジングがもてはやされる今の50代と、50年前の50代では見た目の年齢は20歳は違うかもしれません。でも、卵巣の寿命はこの50年、いえ、おそらく人類が誕生して以来変わっていないのです。
この事実をご存じなかった方に、検査結果を見て「原始卵胞がほとんど残っていないので妊娠するチャンスは限られている」とお伝えしなくてはならない時程つらいことはありません。そのような事態を避けるためにも、女性の健康に携わる私たちが、妊娠には適齢期があることを声を大にして啓蒙していかねばならないと思っています。

ただし、このことを理解した上で出産年齢推移のグラフを見れば、悪いことばかりではありません。なだらかな曲線はライフスタイルの多様性を求める現れと捉えることもできます。生命保険会社が提示する「夫婦と子供二人、第一子の誕生が28歳 …」のようなモデルケースなんて過去の遺物になりつつあるのかもしれません。

育てられない事情がある時に授かった命を養父母に託す、リタイア後に養子を迎えて二度目の人生をともに歩む(子供が成人するまでの寿命はしっかりありますからね)など、自己の遺伝子を残す以外にも社会的な動物である人間だからこそできる人生の選択もあります。
まだまだ日本という国柄がそれを許してくれないところもありますが、「子育て」にはいろいろな形があることも考えてみてはいかがでしょうか。

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