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スタッフコラム

Staff Column

女性ホルモン検査でわかること3・妊娠から出産

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女性ホルモンシリーズも基礎知識から数えて4回目なりました。今回は妊婦さんに関連するホルモンについてです。

妊娠はまさに神秘です。妊婦さんの身体の中では、それはもうイモムシがさなぎやチョウになることに匹敵するぐらいものすごいことが起きているわけですが、当然女性ホルモンの変化にも凄まじいものがあります。
さらには妊婦さんしか作ることのできないホルモンも存在します。妊娠から出産はホルモンの激流に翻弄される女性の生涯における一大イベントなのです。
あまり脅かすのはいけませんね。大丈夫、健診をしっかり受けていれば恐れることはありません。

タイトルは「女性ホルモン検査でわかること」となっていますが、今回は個々の検査数値を考察するのではなく、大きな増減やそれにともなう体調変化を追っていきたいと思います。

胎盤という新しい内分泌器官

妊娠・出産において最もホルモンの変化が激しい時期は妊娠初期と出産直後です。
体調や心の変化としても実感できるこれらの時期に大きくし関係しているのが、胎盤という独立した内分泌器官です。

さて、今回の例え話は何にいたしましょう。とある会社の、子会社設立プロジェクトとでも考えてみましょうか。
「新規赤ちゃんプロジェクト」立ち上げにあたり、まず現地にオフィスを開設して司令塔とし、かなりの権限を委譲します。この現地オフィスに相当するのが胎盤です。
今までトップダウン式で本社中枢部(脳の視床下部)がコントロールしていたホルモンの調整も現場に一任する形に変わっていきます。
最終的には「子会社:赤ちゃん」は独立し、現地オフィス(胎盤)は解散してプロジェクト完了となるわけですが、本社(母体)の存亡をかけて惜しみなく巨大な資本を投入する一大事業なのです。

妊娠維持に欠かせないホルモン

下の図は妊娠中のホルモン量の変化を表したものです。重要なホルモンのほとんどが、胎盤という新しい内分泌器官から分泌されることになります。

それではひとつずつ見て参りましょう。

ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)

ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)は妊娠した女性だけが作るホルモンです。胎盤の絨毛組織から生み出されるのでこの名前がついています。
このホルモンが検出されたということは、「妊娠が成立し胎盤が発現した」ことを意味します。妊娠検査薬はこのホルモンを検出して判断しているのです。

このホルモンの役割を例えるなら、主に現地オフィス立ち上げに携わる要員とでもいえるでしょう。本社(脳下垂体)のゴナドトロピン(FSH, LH)に変わって現地社員であるエストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)を監督するのも仕事です。

妊娠5、6週あたりから猛烈な勢いで上昇し、8~10週で分泌量のピークになります。この時期の気になる体調の変化と言えば、そう「つわり」です。軌道に乗るまでが一番厄介なのはプロジェクトも妊娠さんも一緒です。
体の中のコビトさんたちの間で「本社の指示とやり方が微妙に違う」とか「郷に入れば郷に従えだ」とか、そういう声がとびかってるのかもしれません。次々と送り込まれてくる指令書や備品に埋もれながらてんやわんやですから本体の具合も悪くなるというものですね。

現地オフィスが軌道に乗るのはだいたい15週目くらいです。その後、立ち上げ要員であるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)はゆっくりと引き上げて行きます。

なお、hCGは妊娠初期において異常妊娠を診断する上での指標にもなります。主に尿中の濃度を測定します。

  • hCGが低い場合に疑われること:切迫流産、子宮外妊娠、子宮内胎児死亡など
  • hCGが高い場合に疑われること:胞状奇胎など

Check!:妊娠中の甲状腺ホルモン

妊娠初期におけるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の大量分泌には、少々問題もあります。
本来はエストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)の生成促進が目的のはずなのに、勢い余って(?)甲状腺ホルモン(T4、T3)の分泌まで促進してしまうのです。そのため、妊娠初期は血中の甲状腺ホルモンは増加します。逆に、本来その役割を担っている甲状腺刺激ホルモン(TSH)はバランスを取ろうとするためなのか、その分泌量を減らして低い値を示します。
もともと甲状腺ホルモンが不安定であったりすると、妊娠を引き金にバランスが崩れる可能性も考えられます。

甲状腺ホルモンを正常に保つことは安全な妊娠・出産に欠かせません。当院では、妊娠初期の血液検査で甲状腺ホルモンも調べますが、できれば甲状腺の異常は妊娠前に発見・治療しておくのが望ましいです。異常に気づかないまま妊娠したり妊娠中に発病してしまった場合は、専門医とも連携しながらのきめ細やかな妊婦健診が必要となります。

ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)

hCGと入れ違いに胎盤からの分泌量が増えていくのがヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)です。胎児と母体へ栄養を届けるためのホルモンです。脂質の分解を促進してエネルギー源にし、母体と胎児に分配するなど、母体の代謝調節を担っています。

体も会社も「先立つ物」が必要なのは同じです。例えるなら、本社と子会社のお財布を管理するプロフェッショナルな経理スタッフと言ったところでしょうか。
出産直前が分泌量のピークになります。

エストロゲンとプロゲステロンは?

今までこの二つのホルモンについては性周期の増減グラフとともにさんざん見てまいりましたが、妊娠中はどうなるのでしょう?
妊娠が成立するとエストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)は出っぱなしになります。妊娠初期は黄体が作り出していたプロゲステロンも、胎盤が確立する12〜15週頃には、ほぼ全量が胎盤でまかなわれるようになります。

そのあともとにかくひたすら増えていきます。どのくらい増えるかは上のグラフと下の表で確認してください。気をつけていただきたいのは、今までの性周期の増減グラフとは範囲が全く違うところです。上図のグラフの一番下の目盛りが、前回の性周期のグラフにおける一番上の目盛りに匹敵します。性周期の増減なんて誤差みたいなものです。

ちなみにエストロゲン(E2:血中エストラジオール)の数値では、更年期の私の5.0pg/mlに対して妊娠37週目のA子さんは25,000pg/ml、その差は「な、なんと5,000倍!?」ここまでくると、同じ女性を名乗るのがはばかられる感じです。ごめんなさい。

項目(単位) 妊娠前期 妊娠中期 妊娠後期
E2(pg/mL) 780.0〜16631.0 1146.0〜36635.0 5452.0〜44915.0
P4(ng/mL) 23.9〜141.4 25.7〜142.9 51.2〜325.8

もちろん、両者ともこの赤ちゃんプロジェクトにとってなくてはならない重要な仕事をする社員です。赤ちゃんが居心地よく過ごせるベッドを保つのも、妊娠中に排卵がおきたり母乳が作られたりするのを防ぐのも、体を出産にむけて整えるのもこれらのホルモンの仕事です。

Check!:妊娠と乳がん

乳がんになる確率は、一生に浴びるエストロゲンの量と比例すると言われていますが、こんなにエストロゲンにどっぷり浸かっていて大丈夫なのか心配になりますよね。
妊娠中はプロゲステロンの方が優位であったり、エストロゲン(エストラジオール:E2)の多くが乳がんに対して抑止効果がある言われているエストリオール(E3)に変換されたりするのでかえって危険は減少します。
実際、妊娠・出産経験の無い女性の方が乳がんのリスクは高くなることがわかっています。
とは言え、日頃からセルフチェックをすることが大切です。当院では、全ての妊婦さんに乳がんエコー健診を受けていただいています。

授乳とホルモン

プロジェクトは完成し、子会社は完全独立してしまいました。もう胎盤はありませんからそこで分泌されていたホルモンは一気に減少します。ホルモンのコントロールもまた、本社である脳の視床下部に戻されます。出産後に脳下垂体から分泌されるホルモンには、授乳に関連したものがあります。

乳腺刺激ホルモン:プロラクチン(PRL)

「性周期と無月経」のところで、値が高いのは病気のサインとさんざん言われ続けていたプロラクチン(PRL)ですが、ついに面目躍如の時がやってまいりました。
今回説明するホルモンの中で唯一脳下垂体から分泌されるプロラクチンは、乳腺の発達させて母乳を作るためのホルモンです。妊娠中から徐々に増加し出産前に最高値に達し、他のホルモンが軒並み下落する出産後も(出所と必要性から)一定の量を維持します。

妊娠中、乳房が大きくなっても母乳が出なかったのはプロゲステロンが制御していたためですが、じゃま者がいなくなったことで一気に母乳が作られ始めます。
とは言え、のべつまくなしに分泌されるわけではなく、必要に応じてその分泌量を変化させます。授乳すると分泌が増えて母乳の生産量が増える仕組みは、今流行のオンデマンドといったところですね。

幸せホルモン?:オキシトシン

近頃良く耳にするオキシトシンは、脳の視床下部で作られ脳下垂体から分泌されるホルモンです。
オキシトシンの役目はプロラクチンが作った母乳を赤ちゃんが飲みやすいようにピューッと外に押し出すことで、オキシトシン反射(射乳反射)と呼ばれています。
スキンシップなどによって分泌量が増え、愛情や優しさを呼び起こすと言われていますが、実はその愛情の対象はしっかり選別するというちょっと黒い面も持ち合わせているようです。
発見のきっかけとなった子宮を収縮させる作用も、妊娠によって拡がった子宮を回復させるためにはとても大切です。(痛みで幸福感が半減してしまいそうですが)

これらのホルモンの脳や心に与える影響はまだ研究が始まったばかりなので、詳しいことはこれから追々解明されていくことでしょう。

ホルモンの嵐が心に及ぼす影響

ここまで見てきたように、妊娠・出産は女性の一生のうちでもっともホルモンの増減が激しい時期と言えます。 ホルモンが乱高下する状況下では、バランスを保つのも容易ではありません。ホルモンが心に与える影響は、種類や量そのものより分泌量の急激な変化がもたらすストレスの方が問題となる場合も多いのです。

産後うつとマタニティブルーズ

この2つは混同されることも多いですが、厳密に分けられるかと言えばそれも微妙です。強いて分ければ下記のようになりますが、昨今は、マタニティブルーズは産後うつの引き金になりうるという認識にまとまってきているようです。

マタニティブルーズ 産後うつ
時期の違い 分娩後2週間まで 分娩後2週間以降
原因の違い ホルモンバランスの乱れ ストレスなどの心理的要因
対処の違い 自然に治るのを待つ 治療の必要あり

人の身体は、内分泌系(ホルモン)・自律神経系・免疫系が互いに関係し合って無意識のうちに調節されバランスを保っていますが、ここにストレスが加わるとバランスが崩れ様々な症状として現れてくることは「心身症としてのつわり」でもお伝えいたしました。
これらは非常に複雑で、簡単に割り切れるものではありません。マタニティブルーズはホルモンのせいだからそのうち治るとか、産後うつとホルモンバランスは全く無関係だなどと自分勝手に解釈してしまうのは危険です。

うつは誰もがいつでもかかる可能性のある病気です。マタニティブルーズと時期のかぶる「産後」と付けることでかえって混乱を招いているような気もします。にもかかわらす「産後うつ」と特別扱いをされるのは、それだけ出産と育児にはうつを引き起こす要因がとても多く、患者さんも多いからに他なりません。

妊娠・出産+育児という巨大ストレス

NHK特集の「キラー・ストレス」でも話題になった「ライフイベント・ストレスチェック」というものがあります。人生における様々なストレスの大きさを数値化・ランキングして判断するというなかなかか画期的なものです。

配偶者の死が堂々の第1位ですが、妊娠は本人かパートナーかを分けていないし、出産という項目は無く「家族が増える」と不思議なまとめ方です。しかも両方とも1位に比べて5割程度の加算点数で、あまり女性の実情に合っていないように感じるのです。
あくまで私見ですが、後家楽という言葉があるくらいですし、女性にとっては定年後の配偶者の死と妊娠出産(特に初産)のストレスの大きさを比べれば、後者に軍配が上がるように思います。

ストレス研究がこんな調子ですから、当然出産後も夫婦間や男女間の意識のズレが生まれるのもむべなるかな。ブログ記事からCMに至るまで本当によく炎上しますよね。
まあ、パートナーや会社に過剰な期待をして失望させられるよりは期待値は低めにしておいた方が安全かもしれません。むしろ経験ある友人や役立つソーシャル・サービスを活用して、イライラの原因を遠ざけてしまうのもありでしょう。

ワンオペのたこつぼ状態は「産後うつ」の最強養分です。うつは、普段から責任感が強く何事も自分で完璧にやり遂げようとする人ほどかかりやすいと言われています。仕事はスマートに一人でこなしてきたような方でも育児は勝手が違いますから、上手に回りに甘える術を身につけてください。

赤ちゃんはお母さんの心を映す鏡のような存在です。どんなに幼くてもお母さんの悲しみや痛みを敏感に感じ取ってしまいます。だからこそ、お母さんがポジティブであると同時に心地よく安らかに過ごすことが何より大切なのです。つらい症状が続く場合は、どうか早めに医師に相談していただきたいと思います。

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